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24 Apr. 2019

India Tour Report 2019        Kosetsu Uji (UTokyo)

・affiliation :機械工学科
・duration :February 20-27, 2019
・program :工学系研究科インド工科大学デリー校と企業視察


子供に物乞いをされて

道を歩いていると7,8歳くらいであろうか。小学生くらいの子供に声をかけられる。彼は英語をしゃべることはできないので身振り手振りで伝えてくる。口、おなかに手をやりそして手を差し出しながら「Please!!」と言ってくる。どうやら物乞いのようだ。瞬間私はなんとも言い難い感情になった。はたしてここで10ルピーもやらない私は道徳的にいかがなのか。自分のお土産のためには数百ルピーの出費を厭わない一方で今必至に訴えてくる子供に対しては1ルピーもあげないというのはどの様な説明をするのかと。

 実はこのイベントの二択にはちゃんと正解があって、彼は物乞いではなく物乞い風の募金ビジネスなのである。彼の上には彼と同じような境遇の小学生くらいの子供をまとめている元締めの親分がおり、この激しく微妙な感情に人を陥れるビジネスに手を貸さないためにも断固「NO」というべきであるということをのちにネットで知った。もちろん彼が本当の物乞いであるかそれとも物乞い風ビジネスの一従業員であったかを確かめるためには彼自身にそれを聞く必要があるためそれは明らかにはならない。

 ただこれは思考実験としては少し面白く感じたのでもう少し掘り下げてみたい。先ほどの例とは関係なく格差というのは確かに存在する。それは日印間においても、インド内においても、もちろん日本国内においても。普段大学と家を行き来し、研究室で似たような学生とのみ関わっていると、ともすると世界が自分と似たような境遇の人間ばかりで構築されていると思ってしまいがちであるが、実際に物乞いを受けたとしたら、そしてその物乞いが本当に明日を生きるか死ぬかのレベルで困っているという可能性も十分ありえる。そのときあなたはどの様な行動をとるだろうか。色々なパターンが考えられると思う。貧困層を救う義務は国にあるので自分は関係ない?コンビニで出たおつりをこれからはすべて隣にあるユニセフの募金箱に寄付する?街で出会った物乞いやホームレスにお金を渡しながら歩く?

 ちょうどこれとまったく同じ構造の議題がツアー中にJICAを訪れた後バスに乗っている最中、学生の間で議論になった。もっとも抽象的に言えば貧困層を救うためにはどうすればよいのか。ここで救うとは日本国憲法でいうところの「健康で文化的な最低限度の生活水準」程度のものであるがその程度まで生活の格差を縮小するにはどうすべきであるかということをバスに乗ってからホテルに着くまで延々議論していた。例えば我々が訪れたIITデリーやTata Consultancy Servicesはかなり高い生活水準を維持している。もちろん大学には税金が使われているのでその分を貧困層の食糧や住宅の補助に充てるべきではないか。あるいは教育が貧困の連鎖を断ち切る唯一の手段なのでもっと教育を受けさせる、そのためにはどうすべきであるか。結局は富裕層のために作られた社会政策では貧困層を救うことは難しいのではないか。とこのような調子である。

 もちろん我々はみな工学系なので専門的な社会福祉に関する知識も持っていないし、インドの現状をつぶさに把握している訳ではないが、それでももてる知識の中で真剣に議論をしたように思う。そしてこの議論が始まったということこそが今回のツアーの本質的な意義であるように思う。

普段日本で生活していれば中国や韓国あるいは米国くらいであればニュースに触れる機会も多くキャンパスにも中国人留学生が多いなど興味を持つきっかけも多いがインド人は留学生も確かにいるもののニュースの中でインドに関連するものは非常に少ないだろう。しかし、これからインドは確実に世界のなかで大きくなっていくことは間違いない。それはIITの生徒やTCSの社員の方の優秀さを見ても明らかであったし、HONDAやその他の工業分野の現状を見ていれば明らかである。そんな中でインドを含め鋭く発展している最中の国々の情勢にあまりにも無関心であるというのは非常によくないであろう。たとえ理系の生徒であったとしても。事実JICAの支援事業にもあったように日印共同のインフラプロジェクトは加速度的に増えていっている。それらを実際に協力していくのは重工会社やゼネコンであり、理系のエンジニアである。

今回のツアーでも確かに直接的に学んだこともあったであろうがそれはかなり少ないのではないかと思う。むしろこれからインドについて学んでいくきっかけを与えていただいたと考えている。そのために様々な場所を訪れ、多様な人と触れ合えたのではないか。今回のツアーで感じたことや体験したことを踏まえればきっと他国や多文化に対する見方を少しずつ変えていけると確信している。

少々優等生的な主張になってしまったが、今回のツアーは普通の観光とは違って大学や企業、団体などあらゆる機関と調整を行わなければならず、そういう意味では個人で行くことは到底不可能であろう。それらを全部コーディネートしていただいた蘇先生及び、事務関連のことをしていただいた小山さんに改めてお礼申し上げたい。本当にありがとうございました。

宇治 孝節