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13 Oct. 2015

IST India Tour 2015 Report     Daichi Murakami (UTokyo)

・affiliation :Graduate School of Information Science and Technology, the University f Tokyo
・duration :September 23rd-30th, 2015
・program :IST India Tour 2015

1 世界に触れて

この旅中に手にした一番大きなもの。それはインド人の素晴らしさとか、相対的に日本を発見し たとか、まして旅行の楽しみだとかではない。何十年も憧れ、なかなか機会を得ず後回しにしてい た日本国外への渡航。しかもただの渡航ではなく、その土地で、私と同じ分野 (情報工学) で未来 を睨む企業や、同年代の学生との交流の中で、見えていなかった自分野の可能性、そして世界の近さを意識した。これはかけがえのなく、そして得難い意識だ。本報告では、知らず知らずのうちに遠ざけていた世界が近くなったこと、情報工学の可能性の 2 点に焦点を当てたい。

2 世界に抱いていた距離

2.1 壁

だいたいの日本人学生にとって壁となり得るのが言語なのは仕方がない。それは私にも同じく当てはまる。怖くて TOEIC や TOEFL など受けられたものではない段階の学生が身の回りも含め、 相当数いる。(私の属しているクラスタに偏りがあるのは否めない。)私においても、TOEIC は 1 度も受けたことがなく、自分の英語がどのレベルかは知らない。中・高時代に培った限られた文法 とわずかな単語、そして研究を通じて知った専門用語のみ。当然ながらリスニングテストなど満足にできた試しなどない。

私のような学生には世界は異常に遠い。よく「英語を覚えるには留学が一番」などと吹聴される が、その留学のための資金獲得には TOEIC のスコアが必要なわけで、タマゴが先か、ニワトリが先かの論に行き着く。

2.2 中国・インドの両学生との交流を通して

ホテルで同室の張さんが中国人だったので、図らずもこの旅中で、インド人学生、中国人学生との交流が出来た。張さんが日本語を操らないため、否応にも会話は英語になってしまうが、想像した以上に普通に意思疎通ができた。(もちろん張さんの涙ぐましい努力もあったのだが。)意思疎 通の内容は端目では拙いものに違いないが、不安だったリスニングに関しては、別にテストと違ってなんども聞き直せばいいだけだし、文法だってめちゃくちゃだったけれど、専門用語さえ使えれ ば、ほぼ単語だけでも十分に意味のある交流ができた。私にとってこのことは大きな驚きだったし、幾分も壁が低くなった。張さんからも、「別にそれだけ話せるのなら海外に行けばいい。日本にいる限り英語はそのレベルのままだろうけど、もし行けばずっとよくなるから。」と自身の経験 を交えた励ましをいただいた。

本筋からは逸れるが、私と彼ら海外の学生の間に気づいた共通の、違いが 2 つある。

2.2.1 会話の手続き

日本人、特に関西人として、私は、まとめた一連の話をまず受け取って、それに対する反応を返 すという動作をコミュニケーションの礎として据える。ボケ(話を筋から逸らす)とツッコミ(話 を筋に戻す)の例を思い浮かべるのだが、とりあえずは話を聞かなければならない、というのは暗 黙のうちにそうだろうと思っていた。今回初めて外国人の中に混じって議論をしたのだが、彼らの 話はいつまでたっても終わらない。会話をするためには、割って入らなければならない。当初は 割って入るということに、異常なストレスを感じていたが、これだけでは全編に渡って聞き手に留 まってしまって、これもストレスだった。最後の方にようやく、こちらからも発信することができ たが。異なる手続きの相手と話すことは、英語云々の前に、かなりの慣れを要することが身を持って体感された。

2.2.2 確実な意思疎通の方法

どうやら私の会話速度は遅い。普段無意識に意識していたことだが、一度で理解してもらうため に、文の構成や、選ぶ単語などに不断に気を使っている。彼らにしても、理解をしてもらうために 話をする点は間違いないが、違うのは、何度も繰り返し同じことを言う点にある。曖昧な思いつき をとりあえず口にして、何度も繰り返すうちに次第に FIX して、確実な理解を求めていくという 流れになるため、途切れることなく、かつ高速に語りかけてくる。実際に議論と言う場でこれに遭 遇し、これには終始閉口し通しだった。言葉を発する時に、ものすごく考えてしまって、結局自分 の中で納得して言えず終いだったことがたくさんあるが、せっかく会話なのだから、なんらか行ってみて、フィードバックの一つでももらえばよかったと後悔がある。

3 情報技術の可能性を世界に見て

インドを回り、インドに見出した問題点は数多い。例えばゴミ、そこらじゅうにゴミが打ち捨 てられおり、非常に不衛生だった。絶対的に信号が少なく、交通の状況も劣悪だ。道を渡る時は、 ジェスチャーで車を静止しつつ、壊れた信号を横目に横断しなければならない。また、これは学生 から聞いた話だが、警察の汚職がひどいらしい。例えば交通事故や交通違反をしたとして、チップ を握らせれば目をつむってもらえると言う。とりあえず、インドに住みたいとは心の底から思わなかった。

3.1 制御への情報技術のアプローチ

先に見た 3 つに関して、インドには制御機構が圧倒的に欠けている。日本においては、制御の主 役は人のように思う。警察の汚職がそこまでひどくはないし、ゴミを捨てる人も回収する人にも一 定のモラルがある。交通だって、基本的には横断歩道を信号が青の時に渡るという意識が、我々全 員に与えられている。(信号がなかったり、あったとしてもだいたい壊れているインドにては、そ の意識は芽生えないだろう。)このような制御は、本来情報技術が得意とする分野であるが、前述 の通り日本においては、長年培った人による制御が完成されていて、そこに情報技術が入り込む余 地がない。ただ、もともとこの制御機構がないインドなど、また数多くのインド以下の水準の国な どへは、根底から構築できる余地がある。

汚職の制御。廃棄物の制御。交通の制御、個々の事例について、日本に完全なものがあるかと言えばそうではないし、日本でも必要とされているが、問題が表面化しにくいのも相まって、意識が い。ただし、インドにおいてこの欲求は相当あると思われる。特に今から都市を作っていこうと している段階で、根底からデザインしていこうとインド人学生は考えていた。これは実際に議論したインド人学生が「スマートシティ」なる言葉を使っていたことから推測する。インドを含め、無 数の途上国という、日本とは比にならないくらい大きな市場に、このような形で情報技術が金になる可能性を感じたことは、非常に励みになった。(無論ここでの途上国という言葉の対象が、幾分か大きいことは、了承いただきたい。)

4 終わりに

日本の市場は狭い。それは土地であれ、人口であれ明らかだ。そして、入り込む隙間がほとんど ない。対して世界には多く可能性があるのに、私は壁を前にして実感ができていなかった。こと IT に関すれば、日本のように’ 既に出来上がった’ 政治や医療の根底に、もはや参入することが難 しい。ただ、世界にはまだ、これから構築していこうとしている場所が数多くある。これはチャン スだ。日本企業がインドにおいて成功している事例、苦戦を強いられている事例などを実際にみ ると、先手に回るか後手に回るかが、成功と失敗をわかつような気がする。世界に転がった IT の チャンスに対して、先手を取って、一攫千金のチャンスをモノにしたいと心から思った。世界に対 して不要な壁を感じていたままであったら、私は後手に回っていただろう。この重大な意味におい て、思いのほか世界の近さが実感できた今回の視察は、かけがえなく意味のあるものだった。

 

付録・インド写真

図1 交通状況俯瞰: 歩道はなく。信号もない。

図2 打ち捨てられているゴミ

図3 打ち捨てられているゴミ

図4 とにかく歩道のゴミは凄まじい

図5 情報技術による出席管理。日本では良心にまかせられている部分。

図6 食べ物: 同じ色で同じ味。ちなみにこの中に一つブロッコリーがある。