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24 Apr. 2019

India Tour Report 2019        Ryoji Okuda (UTokyo)

・affiliation :システム創成学科
・duration :February 20-27, 2019
・program :工学系研究科インド工科大学デリー校と企業視察

「裁定機会の縮小と自然との調和」

2019年2月。立春を過ぎても寒さの残る東京を後にし、私はインドの首都・デリーに降り立った。

インドではあらゆるものが安く、物価は大体日本の4分の1程度であった。

この国では、500円程出すと、日本でもかなり豪華な部類のご飯にありつける。

地方の貧しい家庭で産まれたために、親に売られ、1000円にも満たない金額で体を売る少女がいると言う。

実際に私も、帰り道のデリー国際空港で、中国製のandroidスマートフォンを購入した。

Amazonの最安値よりも1万円程安くなっていたし、写真を撮るときの煩わしいシャッター音もinternational版のこの端末からはしない。

この国で「沈没」するバックパッカーは数知れないと言う。

沈没したバックパッカーは一つの安宿に定住し、旅の資金が尽きるまでダラダラと時間を過ごす。

でも私は、もう一度インドを訪れたとしても、日本から持ってきた外貨を使って、その蜜を吸い続ける気にはなれない。

これから人口が急激に減っていく日本では、労働力の不足が大きな問題になる。

とりわけIT人材の不足は、ソフトウェアが影響力をもつ21世紀の世界において、国力を相対的に低下させる大きな原因となるだろう。

インドは、IT人材の育成を重点的に進めており、実際に話したIIT Delhiの学生も機会があれば高給を求めて将来日本で働きたいと口を揃えて言っていた。

2019年現在の私たち日本人の生活水準は、インドのそれよりも遥かに豊かなものである。

しかし、インドの急速な拡大の下に、それが過去のことになる日が近づいている気がして、危機感を覚える。

私はWikipediaを読むのが好きである。

例によってインドの文化について調べる中で、インドの伝統医学であるAyurvedaの存在を知った。

私の調べた限り、これは、精神や肉体・自然との調和に重きを置く生き方の体系のようである。

体内の化学反応のメカニズムを分析し、人口的・化学的な生成物で、体の不具合に働きかける西洋医学と比べると、

食べ物や生活習慣を変え、自然のハーブとともに、体内のバランスを整えるこの営みは、前近代的なもののように感じる。

目を閉じて思考を止める。

生まれてきたことに、今この満ち足りた瞬間に、ただ感謝する。

デリーのホテルで瞑想をした後に、ふと日本で慌ただしく生きている私たちが、何か大事なものを見失っているように感じた。

デリーで話した学生は、日本で生まれた私を羨ましいと言っていた。

日本に生まれた私たちは、インドで生まれた彼らよりも幸せなのだろうか?

今の私はそうは思わない。

人工物に囲まれる私たちは、自然との調和を失っている気がした。

大事な「何か」は、インドで買ったこのandroidの中には無さそうだ。