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24 Apr. 2019

India Tour Report 2019     Chiaki Furusawa (UTokyo)

・affiliation :物理工学科
・duration :February 20-27, 2019
・program :工学系研究科インド工科大学デリー校と企業視察

インドツアーを終えて

わたしが今回のインドツアーに参加したきっかけは、単なる個人旅行ではなかなか行くことのできない場所を訪れ、世界の中で存在感を増すインドの現状を見られるまたとない機会だと思ったからだった。

また、画一化が進む世の中で、日本とは文化が大きく異なるように感じていたインドを体感してみたいと思ったことも志望した大きな理由だった。

・生活や文化について

文化は確かに異なり、とても面白かった。

食事に限っても、ベジタリアンであることは珍しいことではなく、ファストフード店でもベジタリアンメニューがそうでないメニューと同数くらいある。また、お酒を売るところはほかの食品を売るところと明確に区別されているし夜間は営業していない。現地大学生と食事するときもお酒は当たり前のようには出てこない。知識として、「宗教的理由がある」と知ってはいても実際に目にして、そしてそうである人に話を聞くと、これまで「どこかのだれかがしているらしい慣習」、だったものが実感をもって受け入れられた。

また、インド女性はおしゃれだった。サリーなどへの装飾、アクセサリーなどに特化した大きな市場があり、道路でモノを売る小さな子供でもピアスをつけていたりして、なかなか面白かった。ほかにも、物珍しいからかもしれないが、人懐っこい人が多いように感じた。日本の歌知っているよと言って三曲ほど歌ってくれるおじさんに遭遇したり、赤の他人である自分に対して写真を撮ろうといって話しかけてくれる人がいたり、愉快な人々だった。

そんなインドであったが、インフラについては少しつらいものがあった。

道路がぼこぼこして、レーン分けが守られない中、車やトゥクトゥクはすごい速度で走行する。ホテルのシャワーはお湯が出ない(なお、これがインドのスタンダードというわけではないらしいことも書いておく)。街中でも電波の届かないところがちょくちょく存在する。普段日本で生活していて意識しないインフラのありがたみを実感することとなった。

鉄道に関しては、JICAの方から伺った話が記憶に残っている。鉄道を作ると、早く・時間通りにモノや人が運べるようになる。それは、これまで運べなかったものが運べるようになるのはもちろんだが、時間感覚の導入にもなる。さらにそれは時に人の意識をも変えるという。インドでは法律では禁止されているはずだがカーストの影響が色濃く残る。そのためデリーメトロ導入の際、身分の異なる人々が同じ車両に乗るシステムには反対があったそうだ。しかし、その便利さに、今では反対していた層も含め身分関係なく利用しているという。

人の意識を変えるのはとても難しいことだと思うけれど、今なおあるというインドの身分の差はこのような形で少しずつ解消されていくのかと面白く思った。

・教育や産業について

今回のプログラムでは、インド工科大デリー校やTATAグループなどのインドの大変優秀な方々を訪問する機会があった。IITの学生たちは、普段から授業等で英語を使っているだけあって、当たり前のように流ちょうな英語を話す。自分の英語では言いたいことを伝えられなかったり聞き取れなかったりと、意思疎通ができずに悲しく思う瞬間も少なくなかった。

TCSでは、学生に大学院進学への奨学金制度を設けていると聞いた。必ずしも奨学金を受け取った人が入社するわけではなく、時には海外のライバル企業に就職してしまうこともあるそうだが、それでも見返りを求めず、自国の優秀な人を育てたいとの思いから奨学金を支給しているらしい。

その懐の深さに驚くとともに、インド人材が躍進している理由が少しだけわかった気がした。

インドは農業人口が全体の六割を占める一方で製造業は一割強と少ない。確かに、考えてみれば日本でインドの製品を見かけることは多くないし、インドの電子機器市場を訪れたときも、店の人はおいてある商品は基本的に中国製であると言っていた。JICAの方によると、インドはこの現状を変えるべく、現在低い農業の生産性をあげ、それにより生まれる余剰生産力を都市に流入させて製造業に従事させる方向に舵を切っているそうだ。人口が多く、人件費も安い、優秀な人材もいる、などの圧倒的な強みを持つインドの今後が楽しみになった。

街を歩いているとショッピングモールやTCSのようなすごく現代的な建物群と、粗末な家屋群の対比が鮮明だった。それだけに、研修を通して、インドは一定以上の人に対する支援が整っていると感じたのに対して、非常に貧しい人々へのアクションはあまり聞くことはなかったのが気にかかった。上に述べた製造業振興にしても、働くのは一定以上の教育を受けた人である(HONDA工場はそうと聞いた)とすれば働き手として筆頭に上がるのはおそらく彼らではない。極貧の人が貧困から脱出することは政府や組織などの「支援」する立場のものの直接的短期的利益にはきっとあまりならない。けれどどうすれば解決されるのだろうかと、同行した学生と話し合ったりもした。簡単に結論が出るものではなく、考えはインドにとどまらず、日本や自分自身のことに及んだ。様々なものの過渡期であるインドを見ることはこれまで自分の生きてきた社会の成り立ちやこれから、そして自分自身を考え直すきっかけになった。

とりとめのない文章になってしまったが、一言でいえばインドはすごく刺激的で、一週間の滞在ではまだまだ見足りなかったということに尽きそうである。

最後になりますが、小山さんはじめとする国際課の方々、蘇先生、同行した東大生、そして私たちの見えないところでもこのツアーに関わってくださっていたたくさんの方々にお礼を申し上げたいです。