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28 Apr. 2017

India Tour 2017 Report     Shin Takada ( UTokyo )

・affiliation :Civil Engineering, the University of Tokyo
・duration :March 12th-20th, 2017
・program :India Tour 2017

インド成長への展望と課題を見て

1.背景

ここ数年の間、インドは7%代の経済成長率を記録し、さらに10年以内に人口が中国を抜いて世界トップになると予想されるなど、世界中から有望な投資先として注目されている。日本も同様に、「特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を結ぶなど重要な友好国として、また投資先として、官民ともにインドへ熱視線を送っている。インドではこれまでJICAによる多くの有償・無償の資金協力や技術協力が行われてきたが、なかでも円借款および日本の民間企業からの技術移転が行われたデリーメトロ建設プロジェクトは、JICAの「質の高いインフラ」建設・運営支援の成功例として知られている。2015年12月の日印首脳会談では、ムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道建設事業にて「日本の新幹線方式」を採用することが決定され、日本の官民さらには東京大学が技術支援および運営のための人材教育に今後力を注ぐことになる。

2.活動内容

活動内容は下表のとおり。またこれ以外にも授業時間外での現地学生との交流や、デリー市内の観光をした。

特に日本コンサルタンツとJICAの現地事務所の訪問では、それぞれ高速鉄道建設事業とデリーメトロ建設事業について、事前に研究を行ったうえでプレゼンと質疑を行い、交通インフラ建設支援についての理解をたいへん深めることができた。

3月12日 成田空港にて集合、デリー到着後IITデリー校キャンパスへ
3月13日 ホーリー祭に参加
3月14日 IITデリー校にて授業参加・東大についてプレゼン紹介
3月15日 IITデリー校にて授業参加・研究室訪問
3月16日 デリーメトロ建設現場・ホンダ工場訪問
3月17日 日本コンサルタンツ・JICAインド事務所訪問
3月18日 タージマハル・アグラ城見学
3月19日 デリー市内観光
3月20日 成田空港にて解散

3.考察

今回のIITデリー校と日系企業への視察、およびデリーメトロの建設現場と完成した区間での乗車を通じて、インドの成長への大きな兆しを強く感じるとともに、そのなかで課題になること、またそれを乗り越えるために日印で協力できる分野や手法について学ぶことができた。

7日間全体を通して、インドのもつパワーをひしひしと感じた。道路には車とバイクが溢れ、クラクションがそこらじゅうで鳴らされているニューデリーの光景から、途上国特有の活力が感じられる。また多くの場所でビルの建設や地下鉄工事が行われており、インドに投資が集まっていることが感じられる。

事実、訪問したホンダの工場は設立以来4度の拡張工事を続けており、特徴として、敢えて自動車製作ラインにロボットを極力導入せずに人件費の安い労働力を投入しているという。中国の現在の自動車市場2,000万台に対し、インドは未だ340万台に留まっており、今後10~20年での伸びが大きく期待されている。

インドが他の途上国より優位な点として、教育に力が入れられていることが挙げられる。今回の視察では2日間かけてIITデリー校のCivil Engineering Departmentの授業に参加したうえで、互いの大学や研究の様子について紹介しあった。授業内容はHydraulicsやSteel Designなど、東大の社会基盤学科にも共通する分野であった。授業によってはIITの先生が流暢な日本語でIITと東大のそれぞれの強みについて熱心にお話していただくなど、IITの様子を知るとともに、インドや海外といった視座から東大を観ることができた。キャンパスは広く清潔であり、サッカーやクリケットのためのグラウンドをもつなど、学業とキャンパス生活に十分集中できる環境が整えられていた。

IITの学部間にもレベルの違いがあるという。特にコンピュータ学科は定員が他の学科より少なく抑えられていて競争も激しい。大学全体として入学、卒業のハードルが両方高く、またカースト制度の名残というインド特有の文化背景も相まって、教育に関する競争はかなり激しい。このように人材教育に関しては日本とは状況がかなり異なり、今後Sundar PichaiやSatya Nadellaのような、世界レベルで活躍できるインド出身の優秀な人材が増えていくことが十分期待できる。

一方、未だ貧困や低開発に囚われるインドの現状もかなり見受けられた。

デリーを離れて隣の州などに向かうと、野良犬や野良犬を多く見かける。タージマハル観光の際にも物乞いやバスの乗客への売り歩きといった、いわゆる「インフォーマルセクター」を生業とする人たちを多く見かけた。デリーにおいても、デリーメトロ、イエローラインのChawri Bazar駅を降りるとそこはスラムの中心である。電線は盗電目的で勝手に引かれた電線とで輻輳し、道端では子どもが裸で歯を磨いていたりする。ニューデリーのような都市は例外で、インド多くの地域はこのような状況なのだろう。まだ経済発展の余地がかなり感じられた。

ただ、健全な経済発展を遂げるには課題がある。デリーにあるJICAインド事務所にて、インドの経済発展に向けてJICAが行っている取り組みについてお話を伺った。

日本企業がインドへの投資を検討する際の最大の懸念材料として、インフラ整備の遅れがある。特に発電所については、インド全土の電力を賄えておらず停電もよく発生している。下水道を使用できるのもインド全体の人口の半分ほどである。JICAはこれらの公共インフラ、またデリーメトロやチェンナイメトロなどの交通インフラ整備への技術的、経済的な支援を行ってきた。JICAのインフラ整備支援の特徴として、「質の高いインフラ」整備を目標としている。ただ最新技術を用いて構造物を建設するだけでなく、InclusivenessやResilienceといった指標を用いて、最適なスキームをつくることにより「質の高いインフラ」を目指している。

日本コンサルタンツインド事務所を訪問した際には、ムンバイ・アーメダバード間の高速鉄道建設事業を行ううえで、問題点やその解決方法について生徒の側からプレゼンを行い、その後社員の方からフィードバックをいただいた。現在日本コンサルタンツが直面している大きな問題として、すでに大枠で合意したことはずの事柄において、より具体的にインド国側と交渉していくうえで意見衝突が生じ、既存のフィージビリティスタディの前提を変更せざるを得ない状況にあるという。例えばフィージビリティスタディの段階では市街地に駅を造る計画であったものの、インド国側の「この構造物を取り壊すわけにはいかない」という主張により、線形をずらすことになったという。

ただ、このような問題は日本において1950年代東海道新幹線の建設時にも生じている。当時は新幹線高架橋を道路や既存の線路の上につくり土地を有効活用するなどの工夫で問題を克服したという。今後、インド側から数十人のスタッフをJR東日本の研修センターに招き、日本の技術や運営ノウハウを教育する予定であるが、その中でこのような日本の経験が活かされてこそ、中国でもなくフランスでもなく、日本がこの案件を受注したことに意味があるのだと思う。

感想

元々途上国でのインフラ整備事業に興味があり、インドでの高速鉄道事業のことも「なんとなく」知っていて関心があったため、このプログラムに申し込んだ。インドという国についても、「注目しなければならない新興国」という程度の関心があった。だが、参加が決まった後、事前課題に取り組む中、そして現地で実際にインドの空気を吸い、道を歩き、建設現場に赴き、日系企業の方にお話を聞く中で、インドという国のイメージ、またこの国で事業を行ううえでの解決すべき課題がよりはっきり見えてきた。

例えば、事前課題の中ではインド特有の気候(高温、雨季)や不十分なロジスティックスのためにセメント資材の調達が問題点の一つであるとし、その解決案としてプレキャストコンクリートを用いることを提案した。解決案自体はありきたりな手法ということもあり内容に自信が無かったが、プレゼン後に日本コンサルタンツの職員の方から「Excellent presentation.」と言っていただいた。あのときの嬉しさは今でも覚えている。

確かに高速鉄道事業を実現する上で課題は山積みだが、一つ一つの資料を見るだけで本当にわくわくする。東海道新幹線が日本の社会を変えたように、またデリーメトロがデリーにイノベーションをもたらしたように、日本形式の「インド新幹線」がインドを変えていく様子を見ていきたい。また自分もシビルエンジニアとして、国を変えるインフラをこれからつくっていきたいという想いがより強まった。

最後に、このプログラムでは本当に多くの刺激的な経験をさせていただいた。タージマハルの美しさ、ゲストハウスのカレーの美味しさ、何度も乗ったリクシャ、対比的なニューデリーとオールドデリーの街並み、そしてインドで事業に携わる企業の方々とIITデリー校の生徒の熱意、すべてが印象深い良き思い出である。このプログラムに関わったすべての皆さまに御礼申し上げたい。